60代や70代になっても引退せずに働くことがあたりまえになってきました。
しかし定年退職後に就いている仕事の内訳をみると、軽作業などの「単純作業」、警備や清掃など、比較的軽めではあるものの「体力仕事」といえるものが多いようです。
もちろん、労働時間や責任の範囲などの面で、自らの希望で選択したのであれば問題はありません。
しかし「他に選択肢がなかったから」という理由も多く聞かれます。
定年の際、同じ会社での再雇用を希望せずに別の会社への再就職の道を選択した場合、高齢者の求人の実情に驚かされることになります。

高齢者の労働力に対する需要が高まっているといわれているにもかかわらず、それまでのキャリアをそのまま活かせる場合を別にすれば、採用される可能性のある職種の範囲はかなり限定されているからです。
しかし、雇用する会社側の立場に立てばそれは当然のことといえます。
ある程度以上の年齢の人を採用する場合は即戦力としての活躍を期待しますから、経験や知識のない高齢者を採用するメリットはまったくといってないからです。

定年を機に新たな業種や職種に挑戦したいという希望はかなわないということになるのかな?
定年退職後も働き続ける場合、比較的安心感のあるのは、同じ会社で働く「再雇用」です。
あえてそれを選ばず、ストレスや不安の大きい「再就職」を選び、未経験の領域で自分を成長させようとしている人が、そのチャレンジのスタート地点に立つにはどうしたらいいのでしょうか?
おすすめ資格3選と取得へのステップ
テクノロジーの急速な進化を背景に、「セカンドキャリア」「リスキリング」という言葉が一般的になりました。
雇用環境の大きな変化が予測される中、これまでと違う分野の経験を積んだり、新たな学びに取り組んだりすることが重要視されています。
そしてそれは私たち還暦世代にとっても決して他人事ではありません。

定年退職を機に新たな業種や職種への挑戦を考えている還暦世代が、その選択肢の幅を広げる手段のひとつ。それが「資格の取得」です。
ただし資格の取得にはある程度の期間が必要ですから、定年退職前から準備をしなければなりません。
準備段階からのステップを見てみましょう。
ステップ①明確な目標の設定
まず 自身の興味や情熱を持てるものを再確認したり、どのような形でセカンドキャリアを追求したいのかをイメージして、できるだけはっきりとした目標を設定する。
ステップ②現状と目標のギャップの確認
既に持っているスキルを確認して足りないものを明確化し、必要なスキルや資格を選定する。
ステップ③計画と実践
スキルや資格取得に向けた実現可能な計画を立て、実践する。

会社に勤務しながら、再就職に役立つような難しい資格取得の勉強をするのは大変なのでは?
たしかに還暦世代にとって、就職に直結するような難関資格を取得するのは、現実的ではないでしょう。
今までのキャリアと無関係な資格を取るためには、相当な時間が必要になるからです。

そこで、今の仕事をこなしながらでも取得が十分可能な資格を3つピックアップして解説します。
ポイントは次の3つ。
①独学や通信口座で十分取得できる。
②合格率が比較的高い。
③高齢になっても収入につながる。
その資格は次の3つ。
- 登録販売者
- 日商簿記3級
- ファイナンシャルプランナー(FP)3級
ただし、どれもこの資格があれば必ずしも良い条件で就職ができるというわけではありません。

定年退職後の選択肢の幅を広げるために、また、高齢者ということで不利になりがちな再就職を少しでも有利にするための手段と考えた方がいいでしょう。
ではそれぞれの資格について詳しく見ていきます。
この仕事に興味があり、自分のセカンドキャリアとして夢が描けそうなら、ぜひ資格の取得にチャレンジしてみてください。
登録販売者
薬局やドラッグストアなどで、一般用医薬品(市販薬)の販売ができる資格です。
医薬品に関する専門知識を持ち、特徴の説明をしたり相談にのったりします。
薬事法が改正され、コンビニやスーパー、ホームセンターなどでも一般用医薬品の9割以上を販売できるようになりました。
ただしその際は登録販売者資格を持った人を置かなければなりません。

この、営業するために必ず必要な資格を「必置資格」といいます。これがこの資格の有利な点のひとつなのです。
スーパーなどで、時間帯などによっては医薬品の売り場だけ閉まっている光景を目にすることがありますが、これは必置資格者である登録販売者がいないために販売ができないという事情があるからです。
登録販売者の仕事内容と注意点
登録販売者の仕事内容にはさまざまなものがあり、勤務先によっても大きな違いがあります。
資格取得を目指す前に、実際に職に就いた時の姿をイメージしておいたほうがいいでしょう。
注意点は次の2つ。
①必ずしも医薬品に関する専門知識を活かした仕事ができるとは言えない。
《ドラッグストア》では、医薬品の販売や相談だけでなく、接客やレジ、商品管理、発注など、の業務も担当する場合が多い。
病院で処方された薬を販売する《調剤薬局》では、薬剤師のアシスタントとして一般事務業務を行うことが多く、患者データの更新やお会計などの業務全般を担当します。
《コンビニやスーパー》では、医薬品に限らず、食品や日用品などの販売も行うこともあります。
②正式な登録販売者になるためには2年以上の市販薬販売業務の経験が必要。
試験に合格して資格を取得しても、実務経験を満たすまでは「研修中の登録販売者」となり、一人で薬を販売することができません。
その間は正式な登録販売者や薬剤師の管理・指導のもとで働くことになります。

仕事の内容に興味があり、ここにあげた注意点が大きなデメリットに感じないのであれば、適性のある職種と言えるでしょう。
また、勤務先の選択肢が多いのも特徴です。
自分がどんな仕事内容を受け入れられるかということが、勤務先選びの判断基準になるといえます。
還暦世代の資格取得のメリット
登録販売者の資格試験には年齢制限はなく、資格取得後も年齢に関係なく活躍することができるので、定年退職後の再就職時に活用できる可能性が高いといえます。
さらに、必置資格である登録販売者は業界全体で人手不足が続いているため、資格保有者は転職や再就職時に有利になります。
また、体力をあまり使わない仕事であるため高齢者でも続けやすく、正社員にこだわらなければ長く働ける可能性は大きいです。
登録販売者の試験内容
以下の5つの分野から合計120問出題されるマークシート方式の筆記試験です。
医薬品に共通する特性と基本的な知識(20問)
- 一般用医薬品の特性と適正な使用法(40問)
- 一般用医薬品の販売に関する法令(20問)
- 一般用医薬品の販売に関する知識(20問)
- 一般用医薬品の販売に関する技能(20問)
試験時間は240分で、合格基準は120点中80点以上。
試験は年に一回、8月下旬から12月上旬にかけて各都道府県で実施される。
受験手数料は12,800円〜18,100円(都道府県によって異なる)で、試験日程や申込期間は厚生労働省のホームページで確認できる。
登録販売者資格の勉強方法
独学、通信講座、通学の3つがあります。
独学・・自分でテキストや過去問を選んで勉強する必要があります。メリットは費用が安く、自分のペースで勉強できること。デメリットは質問や相談ができないことや、モチベーションを保つなどの自己管理が必要なことです。
通信講座・・インターネットやDVDなどで講義を受けることができる。 メリットは自分のペースで気軽に利用できることや、質問や相談ができるサービスがあること。デメリットは費用がかかることや、独学と同じで自己管理が必要なことです。
通学・・専門学校や講習会などに通って勉強します。 メリットは直接教えてもらえることや仲間と一緒に勉強できること。デメリットは費用が高いことや、時間や場所に制約があることです。

会社に勤務しながらの勉強となると通学は難しい場合が多いので、独学か通信講座ということになります。
予算や自分に合った学習スタイルなどで決めるといいでしょう。
日商簿記3級
簿記は企業の経営活動を記録・計算・整理する技能で、1級から3級まであります。
3級は統一試験(会場でのペーパー試験)とネット試験(全国のテストセンターでいつでも受験できる)があり、ネット試験の方がいつでも受けられて人気があります。
3級の合格率は約45%、2級が約25%、1級が約10%。
目安の勉強時間は3級が約130時間、2級が250〜350時間、1級が500〜700時間です。
日商簿記3級の仕事内容と注意点
一般的には、簿記3級は個人企業規模での経理担当・経理補助を請け負える商業簿記の知識があることを証明する資格です。
就職先としては企業の一般事務や経理事務、会計事務所、銀行や金融機関などがあり、経理業務をサポートしたり、帳簿の作成や経費精算、請求書処理などを担当します。
製造業であれば、在庫管理や売上管理、仕入れ管理などの仕事もあります。

ただし、大企業や大組織の経理として働くには簿記3級では不十分で、簿記2級以上が望ましいとされます。
とはいえ、
派遣社員やパートタイムなら、簿記3級資格があれば未経験でも経理部門の人材募集はたくさんあります。
また、経理関係だけでなく営業関係の職種でも採用されやすくなりますし、一度仕事に就いてしまえば「経験者」としての転職も可能になります。
還暦世代の資格取得のメリット
日商簿記3級の資格は必ずしも高齢者の就職の強みになるとは言えません。
知識としては簿記の基礎的なレベルといえますし、採用されても、すぐにできる仕事は補助的なことに限られてしまいます。

とはいえ、前職までのキャリアや社会人としての経験と併せることで、目指す職種や条件に応じて、就職活動を有利に進める材料にはなります。
また、簿記3級の知識があれば、会社の帳簿からお金の流れを読み取ることができるようになります。
それは多くの職種で役立つものですし、自分が個人事業やフリーランスとして仕事をする場合にも必要になるものです。
日商簿記3級の試験内容
試験内容は商業簿記の基本事項で、経理や会計に関する入門的な知識が問われます。
試験時間は60分で、合格基準は70点。試験は大問が3つあり、配点は以下の通りです。
第1問:仕訳 15題(各3点) 45点
第2問:勘定記入・補助簿・適語補充 20点
第3問:決算 35点
試験方式は「統一試験(筆記型試験)」と「CBT方式(ネット試験)」の2通りがあり、統一試験は毎年定期的に行われますが、CBT方式は年間を通して受験できます。
受験手数料は2,850円(税込み)です。
日商簿記3級の勉強方法
日商簿記3級試験の勉強は独学でも十分に可能で、 実際に多くの人が独学で試験に合格しています。
《独学学習のステップとポイント》
①教材選び・・テキストや参考書、問題集など、信頼性のあるものを選ぶ。
②学習計画・・実行可能な学習計画を立てスケジュールを守ること。 試験までの期間を考慮し、各範囲を均等にカバーできるように計画する。
③理論の学習・・教材を使って試験範囲の理論を学習し、基本的な会計の知識や計算方法に慣れる。
④問題集や過去問・・問題集や過去の試験問題を解き実際の問題形式に慣れることで、理解度を確かめる。
ファイナンシャルプランナー(FP)3級
ファイナンシャルプランナーは、家計にかかわる金融や税制などの知識を持ち、相談者の資金計画をサポートする専門家です。
ライフスタイルに合わせた提案をして、夢や目標を実現するためのアドバイスをします。
FP資格には、日本FP協会と金融財政事情研究会(きんざい)の2つの団体が関係していてやや複雑なうえ、国家資格である「FP技能士」と民間資格である「AFP」、「CFP」があり、さらに分かりづらくなています。

ここでは、一度合格すると資格の有効期限がなく更新の必要のない「FP技能士」について説明します。
FP技能士は3級から1級まであり、2級と1級には受験資格がありますが、3級は誰でも受験が可能です。
※いきなり2級受験も条件(実務経験 or 指定講座修了など)を満たせば可能。
《試験方式》2025年4月1日より、2級・3級の試験はCBT(Computer-Based Testing)方式に完全移行したため、全国のテストセンターで、2025年4月1日~2026年2月28日の期間、毎月受験が可能です。
《申込方法》日本FP協会または金融財政事情研究会(きんざい)の公式サイトからの申込。
《受験料》3級:学科:4,000円 実技:4,000円
《申込期間》各試験日の約2か月前から、試験日の3日前まで。
《合格発表日》受験月の翌月中旬頃。
合格率は3級が約70%、2級が約30%、1級が約10%です。
目安の勉強時間は3級が30〜120時間、2級が150〜300時間、1級が600時間です。
ファイナンシャルプランナー3級の仕事内容と注意点
「老後資金2,000万円問題」などによる老後の資金への不安や、「貯蓄から投資へ」という政府の方針から高まっている資産運用への関心。
ファイナンシャルプランナーへの需要が高まる材料は多く、結果的に資格試験の受験者数も増加傾向にあります。

老後の生活に危機感を持つ人が増えたものの、資産の管理や運用について何から手をつけていいかわからない人が大半で、そんな時に頼りになるのがお金に関するプロだからです。
老後の資金計画の相談先には銀行や保険会社などがあります。
しかし、自社の利益になる偏った商品を勧めてくるなど、必ずしも安心して任せられないというのも実情です。
このため、そういった企業に属さない中立的で独立した立場で保険や投資のアドバイスをしてくれるファイナンシャルプランナーへの需要が増えてきているというわけです。
還暦世代の資格取得のメリット
定年後の再就職案件には金融機関の求人も比較的多く、勤務条件も良いために希望者が多い状況です。
FPの資格は、金融業界や保険業界、不動産業界などへの就職・転職時のアピール材料になるので、仮に業界未経験者であっても、有資格者は再就職の際に有利になります。
また、誰にとっても人生の中で重要なテーマであるお金に関する相談をする際に、若い人からのアドバイスに不信感を抱く方も多いと言います。
その点も、人生経験の豊富なシニア世代のFPとしての需要が高まる要因にもなります。
仮にFPの資格を必要とする業種以外の再就職先に応募する際にも、FPの学習を通して得た知識が無駄になることはありません。
更に言えば、FPの知識は自分自身のライフプランの設計にも役立ちますし、定年後に独立起業を目指す場合にも有効活用できます。
これも、定年後にも役立つ資格としてFP技能士を選ぶメリットといえます。
ファイナンシャルプランナー3級の試験内容
3級の試験は、学科試験と実技試験の2部構成です。
《学科試験》ライフプランニングと資金計画、リスク管理、金融資産運用、タックスプランニング、不動産、相続・事業承継の6科目から出題されます。
《実技試験》日本FP協会で受験の場合は「資産設計提案業務」についての出題です。
《受検手数料》学科試験と実技試験のそれぞれで4,000円です。
ファイナンシャルプランナー3級の勉強方法
ファイナンシャルプランナー3級は独学でも合格可能な試験です。
合格に必要な勉強時間は、一般的には30時間から120時間程度と言われていますが、これにはもちろん個人差があるので、あくまでも目安と考えましょう。

勉強方法としては、過去問を中心に行うのが効率的です。過去問は問題集を買わなくてもFP協会のホームページから見ることができるので、まったくお金をかけずに学習することも可能です。
学科試験と実技試験の2つのうち、学科試験が基本問題であるのに対して、実技試験は実務的な要素が強い応用問題になります。
実技試験といっても選択式の筆記試験で、出題範囲も学科試験と同じなので、実技試験に向けた特別な対策は必要ありません。
試験に際して注意すべき点は、解答時間が1時間と短いことです。
過去問演習の中で計算問題や事例形式の問題に慣れ、時間配分の感覚を身に着けておくことが必要になります。
独学での試験勉強のデメリットは、質問や相談ができないことや、モチベーションを保つなどの自己管理が必要なことです。

その点に不安のある場合は通信講座の受講を考えてもいいでしょう。独学の自由さに加え、問題点の解決が早く、効率的に勉強を進めることができます。
まとめ
シニアでも取得可能な資格について調べてみるとさまざまなものが見つかります。
長寿社会を背景に、定年退職を迎えるような年齢になってからの資格取得にも肯定的な意見が多く聞かれます。
しかしそこには、「学ぶこと自体に意味がある」「人は一生学び続けるべき」といった人生論的な意味合いが多く含まれているようにも感じます。

そんな中、今回取り上げた3つの資格はそういった視点からではなく、定年退職後の収入に直結するような現実的なものになっています。
①独学や通信口座で十分取得できる。
②合格率が比較的高い。
③高齢になっても収入につながる。
これらの条件を満たすものはそれほど多くはありません。
もちろん、資格を取得しただけで再就職を保証するような資格とはいえませんが、高齢者への求人の厳しい現実の中で確実に役立つものだといえます。
採用される可能性のある職種の範囲を広げるためにも、資格の取得にチャレンジしてはいかがでしょうか。
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