「あなたが亡くなった場合、ご家族に総額1億円を残すことができます」
担当者はそう言って、微笑んだ。
長男が生まれたばかりの私はその言葉を聞いて、自分という人間に初めて値段がついた気がしたのです。
月3万円×20年間。その「自分の値段」を守るために保険料を払い続けたのかもしれません。
そして保険を解約した日、
手元に残った金額はほぼゼロでした。
あの担当者の微笑みが、今でも忘れられません。
上司の弟に勧められた、複合型保険との20年

「若いうちに入る方が割安」という言葉
20代の頃、職場の上司の弟が保険会社の担当者でした。
まだ独身だし、生命保険なんて・・、そう思っていましたが、
「若いうちに入るほど保険料が割安になります」
という彼の説明は、確かに理にかなって聞こえたのです。
若さと健康という「資産」を活かして、今のうちに備えておく。その論理に、当時の私は素直に頷きました。
結婚後は「家族のために必須」へと変わった
結婚、そして長男の誕生。担当者の説明の内容が変わりました。
「家族ができたのだから、万が一のときに備えるのは当然の責任です」
独身時代の1.5万円から、2万円、3万円へと保険料が上がっていきましたが、家族を守るための出費だと思えば、疑問を持つ余地がなかったのです。
信頼する人の紹介だから、疑わなかった
もし見知らぬ営業マンから同じ話を聞いていたら、もう少し慎重だったかもしれません。しかし相手は信頼する上司の弟。
悪いものを勧めるはずがない、と思い込んでいたのです。
今思えば、
その「信頼」が、20年間の思考停止の入口だったといえます。
月3万円、20年間払い続けた
死亡・医療・遺族年金が一つになった複合型の罠
加入したのは、死亡保険・医療保険・遺族年金がひとつにまとまった複合型の保険でした。
「これ一本で全部カバーできます」という説明は魅力的に聞こえました。
なぜなら、保険の仕組みはとても複雑で、完全に理解するどころか、基本的なことすらお手上げ状態になってしまっていたからです。
担当者にお任せすることで、考える煩わしさから逃れられると思ったのが正直なところです。

FPを学び、保険の知識がついた今思えば、複数の機能を一つに詰め込むことで、それぞれの保障内容や費用の内訳が見えにくくなっていることがわかります。
「これ一本で全部カバー」の危うさ
複合型保険の問題は、中身の透明性が低いことです。
支払った保険料が、死亡保障にいくら、医療保障にいくら、貯蓄部分にいくら振り分けられているのか、当時の私にはまったくわかりませんでした。
というよりも、今でもそれはわかりません。それは保険会社だけが知るブラックボックスだからです。
いずれにせよ、保険の内容をまともに理解しないまま、毎月3万円を払い続けたのです。
掛け捨てと貯蓄型、どっちがお得だったのか
《もし同じ保障を掛け捨てで用意していたら》
月3万円 → 月5,000〜8,000円程度
差額の月2万円以上をNISAや積立投資に回していれば、20年間で大きな資産になっていた可能性がある。

貯蓄型保険は「保障」と「貯蓄」を兼ねているように見えますが、保険会社の運営コストや利益が差し引かれるため、純粋な貯蓄手段としては効率が低いことが多いです。
独身1.5万円→結婚2万円→子供誕生3万円。ライフイベントを狙った保険会社の戦略
独身時代は月1.5万円だった保険料が、結婚で2万円になり、子供が生まれて3万円になりました。そのたびに担当者が現れ、子供の学費シミュレーションや家族の生活費計算を見せてくれたのです。
数字を見ると、確かに不安になります。
「これだけの保障が必要です」と言われると、反論する言葉は見つかりませんでした。
今思えば、これは保険会社の典型的な戦略なのでしょう。
結婚・出産という人生の節目は、感情が揺れる瞬間です。その瞬間に「家族のために」という言葉を差し込まれると、冷静な判断が難しくなります。
私はその戦略に、見事に乗せられたのでしょう。

ライフイベントのタイミングで保険の見直しを勧められることは珍しくありません。
そのときこそ、感情ではなく「本当に必要な保障は何か」を冷静に確認してください。
資金繰りが苦しくなったとき、保険が「財布」になった
契約者貸し付けという選択肢
自営業の資金繰りが苦しくなったとき、担当者から「契約者貸し付け」という制度を教えてもらいました。積み立てた解約返戻金の一定の範囲内で借り入れができる制度です。
銀行融資より手続きが簡単で、審査もない。
「自分のお金を借りるようなものですから」という説明が、利用への抵抗感を消したのです。
恥ずかしいことではない。でも構造は知るべき
契約者貸し付けを使ったことを恥ずかしいと感じる人もいるかもしれません。「手を付けてはいけないものに手を付ける」という感覚もあるでしょう。
でもそれは制度として存在するもので、利用すること自体は珍しくありません。問題はその構造です。
借り入れた金額には利息が発生します。そしてその元本と利息は、解約返戻金から差し引かれていきます。
貯蓄を兼ねて入った保険。その貯まっていたはずのお金が知らないうちに減っていくのです。
3度の借り入れ、最後は可能額全額
契約者貸し付けで最初に借りたお金は少額でした。そして2回目も大きな額ではありません。
「緊急時だけ」
「すぐ返す」
そんなでつもりで借りたのです。しかし店の資金繰りが続くうちに、事業資金と生活費の境界があいまいになっていきます。
カードローンでに比べれば気持ちの負担は軽いものでした。
本来自分がいずれ受け取るお金。預金を引き出すようなものだと思ったのを今でも覚えています。
「預金を引き出して利息を取られる」そんなバカげたことに疑問すら持たなかったのです。
そして3度目・・・可能額の全額を借り入れました。
気がついたときには、20年間積み立てた返戻金はほぼ消えていたのです。
返済しないとどうなるか?私の場合の現実
契約者貸し付けを返済しなかった場合・・
- 借入残高+利息が解約返戻金を上回ると、保険が失効する
- 失効すると保障もなくなる
- 解約時には返戻金からすべて差し引かれ、手元に残るのはわずかになる

契約者貸し付けの金利は保険会社によって異なりますが、年2〜6%程度が一般的です。
カードローンより低いですが、返済しないまま放置すると複利で膨らみます。
20年目、解約という結末
解約返戻金がほぼゼロだった理由
20年間払い続けた保険を、生活費不足のために解約しました。
解約返戻金の計算書を見て、目を疑いました。3度の契約者貸し付けとその利息が差し引かれた結果、手元に残ったのはほぼゼロでした。
月3万円、20年間。総額720万円近くを払い続けた結果がこれだったのです。
貯蓄型保険は元本割れする?答えは私が証明した
《20年間の保険料総額(概算)》
約720万円 → 手元に残ったのはほぼゼロ
契約者貸し付けの借入と利息が積み重なり、解約返戻金をほぼ相殺した。これが元本割れの現実です。
「死んだら1億円」が消えた日の喪失感
解約して初めて気づいたことがあります。「あなたが亡くなった場合、1億円をお支払いします」という言葉を、私はいつの間にか自分の価値だと思うようになっていたのです。
その保険がなくなることで、自分という人間の値段が消えたような気がしました。
今思えば滑稽ですが、あのときは本当にそう感じたのです。自信喪失という言葉以外に、あの気持ちを表す言葉は見つかりません。
FPになってわかった、貯蓄型保険がダメな理由
保険会社の利益構造を知ったとき
FPの勉強を始めて、保険の仕組みを学んだとき、ようやくすべてが腑に落ちたのです。
貯蓄型保険の保険料には、純粋な保障コストに加えて、保険会社の運営費や利益が含まれています。貯蓄部分の運用利回りも、自分で運用するより低いことが多い。
私が20年間払い続けたお金の一部、いえ、かなりの部分は保険会社の利益になっていたのでしょう。それを知ったとき、正直なところ悔しさで胸が痛みました。
民間保険の前に、まず公的保障を確認する
日本の公的保障は、実は非常に手厚いものです。私が20年間、民間保険に高い保険料を払い続けた背景には、この公的保障への無知がありました。
《知っておくべき公的保障の主なもの》
- 遺族年金
配偶者や子供が遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取れる。「死亡=家族が無収入」ではない。- 高額療養費
月の医療費自己負担に上限がある。一般的な所得なら月約8〜9万円が上限。どれだけ入院しても、それ以上は払わなくていい。- 傷病手当金
会社員が病気やケガで働けない場合、給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給される。- 障害年金
病気やケガで障害が残った場合、障害の程度に応じて年金が支給される。
これらを知っていれば、民間保険で上乗せすべき保障の範囲はずっと小さかったはずです。
「公的保障で足りない部分だけを民間保険で補う」
これが保険の本来の使い方だと、FPの勉強で初めて理解したのです。

自営業・フリーランスの場合は傷病手当金や労災保険がない分、公的保障が手薄になります。
その場合は所得補償保険などで備えることを検討する必要があります。
貯蓄型保険とNISA、どちらがいいか?
《月2万円を20年間運用した場合の比較(概算)》
貯蓄型保険:元本割れのリスクあり/解約時期で大きく変わる
NISA(年利3%想定):約660万円(元本480万円+運用益約180万円)保障はシンプルな掛け捨て、貯蓄はNISAで分けて考えるのが基本です。

NISAの運用益はあくまで想定です。投資にはリスクが伴います。
ただし長期・分散投資の観点では、貯蓄型保険より効率的な選択肢になりやすいです。
60歳からの保険、本当に必要なのか
60歳から保険に入るべきですか?の答え
結論から言えば、60歳からの民間保険加入は慎重に考えるべきでしょう。
60歳以降は保険料が高くなる一方、公的保険の恩恵は現役時代と変わらず受けられます。
まず公的保険で何がカバーされているかを把握した上で、民間保険で補うべき部分を最小限に絞るのが賢明です。
60歳から本当に必要な保障とは
60代が本当に必要な保障は、人によって大きく異なります。
配偶者の有無、持ち家か賃貸か、貯蓄の状況。これらを整理した上で、必要な保障をシンプルな掛け捨てで最小限に用意するのが基本的な考え方です。
「とりあえず手厚く」は、保険会社を喜ばせるだけだということを忘れてはいけません。
保険を見直すなら、まずここから確認すること
今加入している保険の見直しを考えているなら、まず保険証券を引っ張り出してほしい。
- 何に対していくら払っているか
- 解約返戻金はいくらか
- 契約者貸し付けの残高はないか
これを把握するだけで、次の判断がしやすくなります。

保険の解約を検討する際は、解約返戻金の推移表を保険会社に請求してください。何年目に解約するのが最も有利かが一目でわかります。
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今回のテーマは「民間保険」でしたが、この時期の失敗談は他にも書いています。
合わせて読んでいただけると、私がどれだけ「知らなかっただけ」で損をしてきたかが伝わると思います。
・カードローンに手を出した話 →「すぐ返せる」のはずが…自営業10年目の私がカードローンに飲み込まれた話
・国民年金を放置した話 →自営業15年、年金を放置した私の後悔と、そこからの逆転策
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保険の見直しをどこから始めればいいか
わからない方へ。
特定の保険会社に属さない中立的なFPに一度相談してみることをおすすめします。
無理な勧誘は一切なく、何度でも無料で相談できるサービスです。
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保険会社の利益に、20年間貢献し続けました。
それが悔しくて、この記事を書きました。
私の失敗で唯一よかったことがあるとすれば、
同じ経験をした人の気持ちが、痛いほどわかること。
「良い保険だと信じていた」
「担当者を信頼していた」
「解約したら損だと思っていた」
その気持ち、私も同じでした。
あなたの保険、今すぐ中身を確認してください。
知ることから、すべては始まります。


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