定年退職後の健康保険加入の選び方!任意継続と国保ではどちらがお得?

【ファイナンシャルプランナーが解説】還暦世代のためのお金の知識

定年退職後にしなければならないことのひとつに健康保険の手続きがあります。

日本は「国民皆保険」の制度を取っていますから、すべての国民が何かしらの公的医療保険に加入しなければなりません。

FPハマヲ
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会社を辞めてそれまで入っていた健康保険から抜けると無保険状態になってしまうので、自分で保険加入の手続きをする必要があるのです。

会社員を長く続けていると、いろんなことに慣れてしまい、「自分で健康保険に入る」という感覚に違和感を覚えることもあるかもしれません。

健康保険証が当たり前のように手渡され、保険料も給与から引かれる。定年退職して会社員でなくなるとそれが当たり前ではなくなるのです。

もちろん、退職後すぐに次の会社に就職する場合は何も問題ありません。今までのように頼まなくても新しい保険証が手渡され、保険料も頼まなくても給与から引かれます。

しかしそれ以外の場合は何もしないわけにはいかないのです。

ここでは、定年退職後すぐに次の会社に就職しない場合に必ず必要になる「健康保険の手続きについてまとめています。

定年退職後の健康保険の選択肢

定年退職後の健康保険加入には、任意継続制度」「国民健康保険への加入」「親族の扶養に入る」という3つの選択肢があります。

※特例退職被保険者制度というのもありますが、これはごく一部の大企業だけのものなので省略します。

どの健康保険も医療費の自己負担に違いはなく基本的に3割負担です。となると、支払うべき保険料が、どの保険に加入にするかを判断する主なポイントとなるでしょう。

FPハマヲ
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ここで、納める保険料の点で3つの選択肢の比較をしたいところですが、ベストな選択が「扶養に入る」だということは既に決まっています。なぜなら保険料は0円だからです。

ということで、はじめに理想的である「扶養に入る」についての概要や条件を確認して、次に、残念ながら扶養に入れない場合に残される2つの選択肢について比較していきましょう。

親族の扶養に入るための条件

自分が会社員として健康保険に加入している場合、子供や専業主婦である妻を扶養に入れることができます。

そのとき、扶養される側の人の保険料はいっさい納める必要はなく、何人扶養していても自分の給与から引かれる健康保険料は変わらないのです。

そして自分が定年で退職した場合はその立場を逆にして考えればいいわけです。

たとえば、自分は定年退職したけれど配偶者がまだ会社員として働いている場合、条件さえ満たすことができればその扶養に入ることができます

FPハマヲ
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配偶者に限らず、親族であれば同じように扶養に入ることができますが、状況に応じてさまざまな条件があります。

扶養に入るための条件は「収入」がポイント

ここで健康保険の扶養加入の条件を見てみましょう。

条件①

被保険者(健康保険に加入して働いている人)の収入で生計を立てている三親等内の親族であること。

三親等内の範囲は結構広く、定年退職者である自分から見た場合、上は曾祖父(ひいおじいさん)下は曾孫(ひまご)まで入りますし、叔父伯母(おじ・おば)や甥姪(おい・めい)なども入ります。

とはいえ、一般的なのはやはり、妻もしくは子供の扶養に入る形でしょう。

その前提で次の条件②を見てみましょう。

条件②

定年退職した夫の年間の収入が180万円未満(これは60歳以上の場合です。60歳未満では130万円)

「生計を立てている」かどうかの判断は、この収入の状況次第ということになります。そしてこれは、同居と別居で条件がやや変わります。

【同居の場合】・・定年退職者自身の年間収入が180万円未満で、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である。

【別居の場合】・・定年退職者自身の年間収入が180万円未満で、かつ被保険者からの仕送りによる収入額より少ない場合。

この条件を満たして扶養に入ることができれば保険料を払う必要がないというわけです。

そして、条件を満たせずに扶養に入れない場合に残された選択肢は「任意継続制度」「国民健康保険への加入」のどちらかになります。

では、それぞれの特徴について解説し、比較していきましょう。

任意継続制度

会社員などが入っている健康保険は、都道府県や地区町村が運営している国民健康保険とは関係なく、

全国健康保険協会(協会けんぽ)もしくは企業などが独自に作る健康保険組合が運営しています。

健康保険の任意継続制度とは

健康保険の任意継続制度とは、退職者(定年退職に限らず)が働いていた会社の健康保険に2年間を限度に引き続き加入できる制度です。

この場合は退職前と同じ保証を受けることができ、扶養に入っている家族も引き続き健康保険に加入できます。

FPハマヲ
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任意継続制度を利用するための条件は
①退職前に健康保険の被保険者であった期間が2か月以上。
②退職の翌日から20日以内に手続きを行う。
この2点です。

要注意!任意継続の保険料は2倍

任意継続の保険料は、会社に在職していた時と同じで、標準報酬月額をもとに計算されます。つまり、退職前の保険料と同じと考えていいでしょう。

ただし注意しなければならないのは、在職時に給与から引かれていた金額の2倍になることです。

FPハマヲ
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在職時の健康保険料は労使折半といって、会社側が半分負担しています。つまり給与明細の健康保険料の項目で引かれていた金額とほぼ同じ額を会社が支払っていたのです。

任意継続で以前と同じ保険に入っているとはいえ、退職後は会社側の負担はなくなり、全額を自分で負担することになります。結果的に保険料が2倍になるというわけです。

会社が退職した人の分まで負担してくれないのは仕方がないけど、2倍というのはちょっと厳しいなあ。

特に給与が高かった場合はかなりの金額になってしまいます。しかしその点にはついては配慮されていて保険料には上限があります

《任意継続保険料の上限》

任意継続の保険料算出の基準となる「標準報酬月額」の上限は30万円となっています。保険料率は都道府県で多少の違いはありますが、およそ10%程度なので、3万円程度が毎月の任意継続保険料の上限目安となります。(これに介護保険料5千円程度がプラスされます)

ただしこれは加入しているのが「協会けんぽ」の場合です。

FPハマヲ
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会社員が加入する健康保険には、主に中小企業が加盟する「協会けんぽ」と大企業が独自につくる「組合健保」の2つがあります。自分が入っているのがどちらかは、保険証の「保険者名称」のところで確認できます。

「組合健保」の場合、この保険料の上限は比較的高く設定されているケースが多いようです。ただその半面で、健康診断や福利厚生施設の利用などの点で優遇されている面もあるようです。

任意継続のメリットは扶養家族

任意継続に限らず、健康保険加入のいちばんの特徴は「扶養の概念」があるということでしょう。

保険加入者に扶養家族がいる場合はその全員が保険料の負担なしで保証を受けることができます。そしてその分の保険料が上がることはありません。

この点が国民健康保険との比較で大きなポイントになるでしょう。

加入に必要な手続き

定年退職後、健康保険の任意継続をするには、退職日の翌日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」という申請書を、健康保険組合または全国健康保険協会支部に提出しなければなりません。

この20日以内という期限は厳守です。過ぎてしまうと絶対に受け付けてくれないので注意が必要です。

これは退職者が直接行う必要があります。また、扶養家族がいる場合など、添付書類が必要になることもあるので、事前に確認したほうがいいでしょう。

任意継続の場合、保険料を滞納すれば即資格喪失して、国民健康保険の対象となります。

国民健康保険

「コクホ」と呼ばれることも多い国民健康保険ですが、実はこのコクホには2種類のものがあります。

①市区町村など地方自治体が運営するもの
②同業の自営業者で作る国民健康保険組合が運営するもの

ここでは定年退職者が入る可能性のある①の国民健康保険について解説します。

国民健康保険とは

国民健康保険制度は、会社員などが入る健康保険」に加入していないすべての人が対象になるものです。(75歳以上になると後期高齢者医療制度への加入に移ります)

制度の運営は都道府県と市区町村、つまり地方自治体が行っていて、保険料は世帯ごとに収入や資産額、世帯人数に応じて算出されます。

計算方法は市区町村によって異なるうえにとても複雑なため、正確な金額は市区町村の窓口で確認しなければわかりません。

国民健康保険の保険料には前年の収入が影響

国民健康保険の保険料については、簡単に理解できるものではありません。結局のところ、正確な金額は市区町村の窓口で確認しなければわかりません。

FPハマヲ
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基本的には、

①前年の収入が高いほど高くなる。
②扶養家族が多いほど高くなる。

と考えていいでしょう。

国民健康保険に「扶養」はない

国民健康保険の特徴のひとつは「扶養の概念がない」ことで、これは納める保険料に大きく影響します。

会社員などが加入する健康保険の場合、扶養している家族が何人いても保険料は変わらず、その家族全員が同じ医療保障を受けることができますが、国民健康保険では扶養家族の人数によって保険料が変わります

FPハマヲ
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つまり、扶養家族が多い人の場合、定年退職後に国民健康保険に切り替えたとたん保険料が大きく上がってしまうことがあるのです。

任意継続と国保の比較と考慮すべきポイント

「健康保険の任意継続」と「国民健康保険への加入」定年退職後にどちらを選んだほうがいいのでしょうか?

健康保険の傷病手当を受給中であるなどの特定の状況を除いては、受けられる保証にはほとんど違いがないということで、選択のポイントはやはり「保険料の違い」ということになります。

保険料に影響する「前年の収入」と「扶養家族」

健康保険も国民健康保険も、計算の仕方は違うものの、保険料には前年の収入が関係してくるという点では共通しています。

国民健康保険の保険料は自治体によって計算方法が異なるので、正確な金額は窓口で確認する以外に方法はありませんが、

一般的に、標準的な収入で扶養家族がいない場合では、「健康保険」と「国民健康保険」の保険料にはそれほど違いがないというケースが多いとようです。

一方で、扶養家族がいる場合には「扶養の概念」がある健康保険のほうが国民健康保険に比べ保険料が安くなるということになります。

FPハマヲ
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そして保険料の比較でもうひとつ重要な点は、「任意継続の保険料は2年間変わらない」ということです。

定年退職時に任意継続を選択した場合、その後2年間は毎月同じ保険料を納めなければなりません。

これに対して国民健康保険では、退職後2年目の保険料は1年目の収入(退職した翌年の収入)によって計算しなおされるので、ほとんどの場合は大きく下がることになります。

FPハマヲ
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定年退職時の健康保険の選択を難しくしていたこの問題も、令和4年1月の法改正で解決されたのです。

法改正で大きく変わったこと

これまでは退職時に任意継続を選択した場合、2年間は任意継続をやめることができませんでした。

ですから、退職後1年目の保険料を比較して健康保険の任意継続を選択した場合は2年目も同じ保険料を払い続ける必要がありました。

FPハマヲ
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仮に退職後1年目の収入の関係や扶養家族の状況が変わって、2年目の国民健康保険の保険料が大きく下がったとしても、その時点で加入の変更をすることができなかったのです。

令和4年の法改正でその「任意継続の2年縛り」が無くなり、途中で国民健康保険に切り替えることが可能になりました。

つまり、退職後1年間は任意継続し、2年目は保険料の状況を見てからどちらにするかの選択ができるようになったのです。

これで、定年退職時の選択の悩みはだいぶ軽減されたのではないでしょうか。

まとめ

定年退職後すぐに次の会社に就職しない場合に必ず必要になる「健康保険の手続き」についてみてきました。

この健康保険をはじめ、税金や年金といった社会の制度に関して、会社員という立場はほとんどのことがすでに決められていて、手続きもほぼ自動的に進められます。

入社すると健康保険証が手渡され、保険料は給与から引かれます。税金や年金も否応なしに天引きされ、そこには選択の余地はありません。

このことを不満に思う反面、確実に楽をさせてもらっている感覚があるのもまた事実ではないでしょうか。そんな手続きをすべて自分でしなければならない自営業者に比べればだいぶ負担は少ないのですから。

しかし会社員を長く続けていると、そんな楽な状況にも慣れてしまい、「自分で健康保険に入る」という感覚に違和感を覚えることもあるかもしれません。

しかも、どの保険に入るかを選択をして期限までに手続きをしなければならないのです。

FPハマヲ
FPハマヲ

直前になって慌てないように、健康保険に関する基本的な知識は身につけておく必要があるでしょう。

この記事の内容をまとめると以下のようになります。

  • 定年退職後の健康保険の選択肢は「任意継続」「国民健康保険」「親族の扶養」の3つ。
  • 受けられる保証はどれもほぼ同じなので、選択のポイントは「保険料」。
  • 保険料の点で有利なのは「扶養に入る」だが、条件が多い。
    「任意継続制度」の保険料は在職時のほぼ2倍で扶養家族も保証を受けられる。
  • 「国民健康保険」の保険料は扶養家族がいる場合高くなり、金額は役所で要確認。
  • 令和4年の法改正で「任意継続の2年縛り」が無くなり、途中で辞められるようになった。

定年退職後の健康保険の選択にはいろいろな状況が関係してきます。とはいえ、考えなければならないのは支払う保険料の総額ということだけでしょう。しかも法改正によって、退職時に2年目の保険料の比較に悩む必要もなくなりました。

退職後1年目も2年目も、保険料の状況を見て加入の選択をすればよいのです。

任意継続の保険料については簡単に知ることができ、しかも2年間変わりません。そうなると私たちがするべきことは、退職時、そして2年目に入る前に国民健康保険の保険料を確認することだけです。

読書社会保障の制度はどれも複雑で分かりにくいですが、内容をよく調べて整理してみると、意外とシンプルだったりもします。

まずは面倒がらずに向き合ってみることが大切ではないでしょうか。

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