ねんきん定期便が届いた日、私は封筒を開けてしばらく動けなかった。
年額90万円。月にすれば7万5千円。
「とても、これだけでは生きていけない」
でも、これが私の30年間の答えだった。
自営業15年間、国民年金をほぼ払わなかった。その結果が、この数字に刻まれていた。
自営業15年、国民年金はほぼ未納だった

「来月払う」が15年間続いた
観光地で飲食店を自営していた頃、毎月の資金繰りは綱渡りだった。売上が落ちる閑散期には、仕入れ代、家賃、スタッフの給料を優先するだけで精一杯。
国民年金の納付書は届いても、「来月まとめて払う」と後回しにし続けた。
その「来月」が、15年間続いた。
払えない時期に免除申請をしなかった理由
免除制度の案内は届いていた。一度は年金事務所の職員が訪問してくれて、申請したこともあった。でもその後は、忙しさにかまけてまた放置した。
案内を読む時間も、手続きをする余裕も、当時の自分にはないと思い込んでいた。
知恵袋では聞けない、未納の現実

ねんきん定期便を開けて、動けなくなった日
毎年届くねんきん定期便を、長い間まともに開けていなかった。開けても現実を直視したくなかったのかもしれない。
FPの勉強を始めてから初めてきちんと確認したとき、そこに書かれた数字が、15年間の放置の重さをそのまま示していた。
年額90万円。月7万5千円という現実
《私の年金受給見込み額(65歳受給開始の場合)》
年額 約90万円/月額 約7万5千円
国民年金の満額は年間約80万円(2024年度)。未納期間が長いほど、この満額から大きく下回る。
それでも90万円になった理由
「15年も未納なのに、なぜ90万円もらえるのか」と思われた方もいるかもしれません。
私の場合、自営業を始める前の約12年間、会社員として厚生年金に加入していました。また自営業をやめた後の約10年間も、厚生年金加入で働き続けています。この合計約22年間の厚生年金加入期間が、受給額を下支えしています。
逆に言えば、もし会社員経験がなく自営業一本で15年間未納だった場合、受給額はさらに大幅に下がっていたはずです。
「90万円でも少ない」と感じているのに、それすら厚生年金に助けられた結果だという現実が、未納の怖さをより鮮明に示していると思っています。

自営業一本で国民年金のみの場合、40年満額納付でも年額約816,000円が上限です。未納期間が長ければ、それをさらに大きく下回ります。厚生年金との併用がいかに重要かがわかります。
10年間未納だとどうなる?私の場合で計算する
国民年金は40年間(480ヶ月)納付すると満額を受け取れる。未納や免除の期間があると、その分だけ受給額が減る。15年間ほぼ未納だった私の場合、単純計算で満額の約3分の2以下になる。これが数字の現実だ。

受給資格を得るには最低10年間(120ヶ月)の納付または免除期間が必要です。未納のまま放置すると、受給資格そのものを失う可能性があります。
「どうせもらえない」が、未納を加速させた

年金破綻説は当時からあった
資金繰りが苦しかったことは確かだ。でも正直に言えば、それだけが理由ではなかった。
「どうせ年金なんてもらえないだろう」
という気持ちが、心のどこかにずっとあった。年金破綻説は当時から盛んに言われていて、自営業仲間の間でも「払っても無駄」という声は珍しくなかった。
正直、私もそう思っていた
「破綻するかもしれない制度に、苦しい思いをして払う必要があるのか」。そう自分に言い聞かせることで、未納を正当化していた部分があった。今振り返れば、それは都合のいい言い訳だったと思う。
FPの勉強で気づいた、破綻説の誤解

FP2級の勉強を始めて、年金制度の仕組みをきちんと学んだとき、自分の思い込みに気づいた。
年金は保険と同じ理論で運営されている。加入者全体でリスクを分散する仕組みである以上、急激に破綻に向かうものではない。
そして何より、数十年間破綻説が叫ばれ続けながら、制度は今も維持されている。それ自体が、破綻説の誤りを示していると私は考えている。
未納を続けた本当のツケは、自分に返ってきた
年金が破綻したわけではなかった。受給額が激減したのは、制度のせいではなく、私自身が払わなかったからだ。「どうせもらえない」という言い訳が、本当に受給額を減らす結果を招いた。皮肉な話だが、これが現実だった。
FPになって初めてわかった、免除制度の本当の価値

未納と免除は「似て非なるもの」
未納と免除の決定的な違い
未納:受給資格期間に算入されない。将来の年金額にも反映されない。
免除:受給資格期間に算入される。国庫負担分(2分の1)は年金額に反映される。
免除しない方がいい、は本当か?
「免除すると年金額が減るから申請しない方がいい」という声を聞くことがある。確かに全額免除の場合、将来の受給額は満額より少なくなる。しかし未納のまま放置するよりも、免除申請した方が受給額は確実に多くなる。払えない状況であれば、免除申請は迷わずすべきだ。
免除申請はいつまでできる?
免除申請は、過去2年1ヶ月前まで遡って申請できる。「もう手遅れ」と思っている方も、まず年金事務所に相談することをおすすめする。

免除には所得基準があります。自営業で収入が少ない時期は、条件を満たせる可能性が高いです。まず「ねんきんネット」や年金事務所で自分の状況を確認してみてください。
払えない・免除もできない人はどうなるのか
一度も払っていない60歳でも年金はもらえる?
結論から言えば、受給資格期間(10年以上)を満たしていなければ、年金は受け取れない。ただし60歳以降も任意加入制度を使って納付を続けることができる。完全に諦める前に、まず自分の納付記録を確認することが大切だ。
未納期間がある場合の受給額シミュレーション
国民年金の受給額の目安(2024年度・満額 約816,000円)
納付期間40年(480ヶ月)→ 満額 約816,000円/年
納付期間25年(300ヶ月)→ 約510,000円/年
納付期間10年(120ヶ月)→ 約204,000円/年
それでも年金を増やす、私が実践している3つの方法
①厚生年金に加入して働き続ける
自営業を辞めた後、厚生年金に加入できる職場で働くことにした。厚生年金は国民年金より受給額が大きく、加入期間が長いほど将来の受給額が増える。「長く働く」は体力的な問題もあるが、年金という観点からも意味がある。
②70歳繰り下げで42%増を狙う
繰り下げ受給のシミュレーション(私の場合)
65歳:年額90万円 → 70歳:年額約128万円
繰り下げ1ヶ月につき0.7%増額。70歳まで繰り下げると42%増になる。
70歳まで厚生年金加入で働きながら繰り下げることで、受給額を大幅に増やせる見込みだ。これが今の私の現実的な逆転策だと考えている。
③75歳繰り下げの84%増は現実的か
75歳まで繰り下げると84%増という数字は確かに魅力的だ。しかし日本人の健康寿命は男性約73歳、女性約75歳と言われている。受給開始を遅らせるほど、元を取れずに終わるリスクも高くなる。数字だけで判断せず、自分の健康状態や生活状況を踏まえて考えることが大切だと私は思っている。

繰り下げ受給の損益分岐点は、70歳繰り下げの場合で約81歳です。81歳以上生きれば、65歳から受給するより総受給額が多くなります。
私の失敗は、もう取り戻せません。
15年間の未納が刻んだ数字は、変えられない現実です。
でも、あなたにはまだ時間があるかもしれない。
「どうせもらえない」と思っているなら、一度立ち止まってほしい。
私もそう思っていた。でも本当のツケは、制度ではなく自分に返ってきた。
免除申請は、今日でもできます。
まず、ねんきん定期便を開けることから始めてください。


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