年金の繰り下げ受給、自営業者はデメリットを気にしなくていい理由

ひらめき <<年金

少ない年金を増額する方法として繰り下げ受給を検討している人は多いでしょう。

しかし、

「繰り下げ受給はデメリットが多い」

そんな記事や動画を見て、踏み切れずにいる自営業者もいるかもしれません。

実はそのデメリットの多くは会社員を前提とした話で、自営業者には当てはまらないものが少なくないのです。

そしてそれは、自営業を廃業して会社員になった方も同様です。なぜなら、厚生年金の加入期間が短ければ、繰り下げのデメリットとしてよく挙げられる項目の多くは関係がなくなるからです。

この記事では、繰り下げ受給のデメリットを一つずつ検証し、自営業者や自営業者から会社員になった人が本当に気にすべき点と、気にしなくていい点を整理します。

年金の繰り下げ受給とは何か

まず、年金の繰り下げ受給について確認しておきましょう。
年金の受給開始は原則65歳ですが、66歳以降に遅らせることができます。これを「繰り下げ受給」といい、受給開始を遅らせるほど、毎月受け取れる年金額が増える仕組みです。最大75歳まで繰り下げが可能。

繰り下げによる増額率は、1ヶ月繰り下げるごとに0.7%

  • 1ヶ月繰り下げ → 0.7%増額
  • 1年(12ヶ月)繰り下げ → 8.4%増額
  • 5年(60ヶ月)繰り下げ(70歳) → 42%増額
  • 10年(120ヶ月)繰り下げ(75歳) → 84%増額

そして損益分岐点は何歳か?というのも気になる点でしょう。

  • 70歳まで繰り下げ → 約81歳で元が取れる
  • 75歳まで繰り下げ → 約86歳で元が取れる

日本人の平均寿命は、男性約81歳・女性約87歳(2023年)ですから、判断が難しいのは確かです。

しば・はまお
はまお

ただし、損益分岐点だけで判断するのは危険です。年金は「長生きリスクへの保険」という側面もあるからです。長く生きるほど、繰り下げの効果は大きくなります。

繰り下げのデメリットとしてよく挙げられること

繰り下げ受給のデメリットとして、以下の5つが挙げられます。

①社会保険料・税金が増える
②在職老齢年金でカットされる
③加給年金がもらえなくなる
④障害年金に切り替えられなくなる
⑤早く亡くなると損をする

①社会保険料・税金が増える
年金額が増えると、所得税・住民税・健康保険料・介護保険料が増える可能性がある。

②在職老齢年金でカットされる
働きながら厚生年金を受け取る場合、給与と年金の合計が一定額を超えると年金がカットされる。

③加給年金がもらえなくなる
厚生年金に20年以上加入していると、配偶者がいる場合に加算される「加給年金」が、繰り下げ期間中は受け取れない。

④障害年金に切り替えられなくなる
繰り下げ待機中に障害を負った場合、障害年金への切り替えができなくなる可能性がある。

⑤早く亡くなると損をする
損益分岐点より早く亡くなると、早く受給した場合より総受給額が少なくなる。

デメリットが自営業者へ及ぼす影響

結論から言うと、自営業者にとって①〜③は基本的に関係ありません。

①社会保険料・税金が増える
社会保険料が増えても国民健康保険には上限があります。

年金が増えると社会保険料が増えるというデメリットは、一定の収入がある会社員に影響が大きい。

自営業者の場合、国民健康保険料には上限額(賦課限度額)が設けられているので、すでに上限近くまで保険料を払っている場合、年金が増えても保険料はほとんど変わりません。

また所得税・住民税の増加についても、年金額が少ない自営業者の場合、各種控除(公的年金等控除・基礎控除など)の範囲内に収まることが多く、実質的な税負担増はわずかなことが多い。

②在職老齢年金でカットされる
在職老齢年金は厚生年金加入者だけの問題

在職老齢年金とは、会社員として働きながら厚生年金を受け取る場合に、給与と年金の合計が一定額(2024年度は50万円)を超えると年金がカットされる制度です。

これは厚生年金受給者だけに適用され、国民年金(老齢基礎年金)のみを受け取る自営業者には適用されません。

③加給年金がもらえなくなる
加給年金は厚生年金20年以上加入が条件

加給年金とは、厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき、配偶者がいる場合に上乗せされる年金です。

繰り下げ中はこの加給年金が受け取れないというデメリットがありますが、自営業者の多くは、厚生年金への加入期間が20年に満たないか、そもそも厚生年金に加入していません。

しば・はまお
はまお

このように、デメリット①〜③は自営業者にほぼ関係ありません。しかし、自営業者が気にすべきデメリットも残っています。

④障害年金に切り替えられなくなる
繰り下げ待機中に重い障害を負った場合、障害年金への切り替えができなくなる可能性があります。これは自営業者にも当てはまるデメリットです。

ただし障害年金の受給には一定の条件があり、すべての人が切り替えできるわけではありません。また繰り下げをやめて65歳時点の年金を受け取ることは途中でも可能なため、完全に不可能になるわけではありません。

⑤早く亡くなると損をする
損益分岐点より早く亡くなると、総受給額が少なくなります。これは自営業者にも当てはまる普遍的なデメリットです。

ただし年金は「長生きリスクへの保険」という性格を持っています。
長く生きることへの備えとして繰り下げを考えれば、損益分岐点だけで判断する必要はないといえます。

とはいえ、繰り下げ中は年金収入がゼロになるため、その間の生活費を別途確保する必要があります。

安定した収入がない状態での繰り下げは生活を圧迫するリスクがあり、これが繰り下げの最も現実的なデメリットといえるでしょう。

しかし、会社員として働きながら繰り下げることで、このリスクは大幅に軽減できます。

 

しば・はまお
はまお

繰り下げで「後悔した」という声の多くは、生活費の確保が難しくなったケースです。安定した収入がある状態で繰り下げるのが、最もリスクが低い選択です。

繰り下げ受給に向いているのはこんな自営業者

以下に当てはまる自営業者は、繰り下げ受給が特に向いています。

  • 年金受給見込み額が少ない(月8万円以下)
  • 健康に自信があり、長生きする可能性が高い
  • 今後は会社員として働きながら繰り下げ期間の生活費を確保できる
  • 厚生年金加入期間が20年未満(加給年金の対象外)
  • 国民健康保険料がすでに上限近くまで達している

繰り下げ受給は年金が少ない人ほど効果が大きいといえます。

繰り下げによる増額率はひと月当たり一律0.7%です。ベースになる受給額が大きい方が増える金額も大きくなるのは確かですが、年金が少ない自営業者ほど増額分の生活への影響が大きいとも言えます。

月7万円の年金が42%増で月約10万円になる効果は、月20万円が月約28万円になる効果より、生活水準への影響が大きいからです。

そして、
会社員として働きながら繰り下げを狙うのが、最も効率のいい年金増額法です。

繰り下げの最大のリスクは、待機中の生活費です。これを解決する最も現実的な方法が、会社員として働きながら繰り下げること。

安定した給与収入がある状態なら、年金を受け取らなくても生活できます。しかも厚生年金に加入し続けることで、受給額がさらに増える効果も加わるからです。

関連記事➡60歳から厚生年金×繰り下げ受給で年金はどこまで増やせるか

今日から始められること

年金の受給開始年齢は多くの人が悩むテーマです。

繰り下げを検討する前に、まず自分の受給見込み額を把握することが大切です。毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」か、「ねんきんネット」で確認できます。
自分の数字を知ることで、繰り下げの効果が具体的にイメージできるでしょう。

また、繰り下げは途中でやめられるという点にも着目すべきでしょう。

「繰り下げを始めたら後戻りできない」と思っている人も多いかもしれません。しかしそれは誤解です。

繰り下げ待機中でも、いつでも受給を開始できます。

生活費が苦しくなったり、体調に変化があったりした場合は、その時点で受給を始めればいいのです。完全に取り消せない選択ではないので、まず試みることへの心理的ハードルを下げてほしいと思います。

まとめ

年金の繰り下げ受給のデメリットと、それが自営業者へ与える影響について見てきました。

繰り下げ受給のデメリットは、多くが会社員を前提とした話です。

社会保険料の増加、在職老齢年金のカット、加給年金、これらは自営業者にはほぼ関係ありません。

このことからも、少ない年金を少しでも増やしたいなら、繰り下げは有力な選択肢といえます。

そして、繰り下げ受給の効果を最大化するためには、安定した収入を確保しながら、繰り下げを目指す環境を作ることが必須です。

そのための現実的な選択肢が、会社員として長く働き続けること。

自営業の先行きに希望が持てず、老後の生活資金に不安を抱えているなら、その選択肢と真剣に向き合ってみてほしいと思います。

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