人生100年時代を迎え、定年後も働き続けることがあたりまえになってきました。
法律や制度の改正で、年金受給の始まる65歳までは在職している会社で雇われることがほぼ保証され、それが70歳まで延びるのもそう遠い話ではないようです。
とはいえ、同じ会社で働き続けるこの「再雇用」の現実はけっして喜ばしいものではありません。
特に給与などの待遇面では満足できる条件が提示されることはほとんどなく、収入が半分になってしまうケースも珍しくないからです。
では、そんな不本意な条件での再雇用は考えず、他の会社で働く「再就職」を選択する人が多いかといえばそんなことはありません。

実際、60歳以降も働いている人のうちの80%以上が、いまの会社での再雇用を選択しています。
その背景には高齢者雇用の現実があるのでしょう。

再雇用の条件には納得できない。でもこの年になって他にいい条件で雇ってくれる会社なんてあるのかな?
これから何年続くかはっきりとはわからない仕事の時間。その重要な選択を前に悩んでいる還暦世代も多いのではないでしょうか。
この記事では、定年退職後の仕事の続け方の中で、あまり選ばれることのない「再就職」についてまとめています。
60歳以上の求人の甘くはない現状と、その中で少しでも有利な条件で雇用されるために私たちがすべきことについて、長寿化が進む社会背景を考えながらまとめています。
再雇用と再就職の違い
なぜ再雇用に比べて再就職を選択する人が少ないのでしょうか?まずは再雇用と再就職について整理しながら、その理由を考えてみましょう。

再雇用は「定年後に現在の会社で働く」こと。
再就職は「定年後に新しい会社で働く」こと。
定年退職した後も働き続けるという点については同じですが、このふたつには大きな違いがあります。
《再雇用》
いま働いている会社を、定年でいったん退職手続きを行った後に改めて雇用される制度。この場合、非正規雇用(嘱託社員など)となるケースが多く、給与などの条件もあらたに決めることになります。
そしてほとんどの場合は給与が退職前より大幅に下がってしまいます。
とはいえ、今の会社にそのまま勤め続けられる再雇用は、仕事探しの手間や時間がかからず、未知の環境に対する不安などのストレスもない方法といえるでしょう。
《再就職》
いま働いている会社を定年退職した後、まったく別の会社に雇用される形です。すでに持っている人脈を使って次の会社に移るというケースもありますが、ほとんどの場合は、求人に応募して面接を受けるという一般的な方法で再就職先を探すことになります。
しかし60歳以上になると求人数も少なく、条件のいい就職先を探すことはかなり難しいのが現状です。
再就職の選択は挑戦の選択
再雇用と再就職の特徴を見てみると、結局のところ、比較的簡単でしかも安心感のある選択肢は「再雇用」ということになります。
それに対して「再就職」は決して楽な道ではありませんし、未知のものに向かう不安をともなうものです。さらに、苦労の末に就職した会社が思い描いていたものと違うという可能性もあります。
しかし「再就職」には、「再雇用」にはないさまざまな可能性も秘められているのです。
新しい環境で働くことは自分自身のスキルアップにもつながりますし、新たに生まれる交友関係は人生をより豊かにするきっかけになるかもしれません。
今までと違う業種や職種へ再就職する場合は、新しい分野での発見や今までにないタイプの人との出会いもあり、そして何よりも、自分自身の未知の可能性を試す絶好の機会なのです。

このように再就職のメリットとデメリットを考えると、再雇用と再就職のどちらを選択するかという問題には、60歳という年齢の捉え方が大きく関わってくるように思えてきます。

この年になって慣れない環境に飛び込む勇気が自分にあるのか?今さら別の分野の仕事に挑戦なんて無謀なのでは?
そう考えれば、たとえ給与がある程度下がってしまうとしても再雇用を選ぶことになるでしょう。

逆に60歳を人生のなかばと捉えて、新しい環境や未知の業種に夢を描けるようなら再就職は有力な選択肢になります。
もちろん、どちらが正解という話ではありません。ただ、人生100年といわれ働く期間が延びていく今の社会では、好奇心をもって自分の可能性を試してみる姿勢も決して無謀なものではないように思えます。
定年後の再就職が難しい理由
自分の可能性を信じて新しい会社への再就職を決意した場合、まず直面するのは高齢者雇用の現実です。
会社側としても60歳を過ぎた人を採用してから育てるつもりはありませんから、求められるのは即戦力となる人材です。
既に持っているスキルや人脈を活かした再就職を別にすれば、良い条件で雇用してもらうことは困難といえるでしょう。
会社が求めるスキルや経験がない場合、採用されるとしても、誰でもできる比較的簡単な職種に限られてしまいます。
結果的に低い給与で雇用されることになり、定年退職前の会社での再雇用の給与と比較しても収入がダウンしてしまう可能性もあるのです。
このような現実の中、納得できる待遇で雇用されるためにはどうしたらいいのでしょうか?
有利な再就職活動のための4ステップ
再就職応募の際に少しでも良い条件で話を進めるには、既に持っているスキルや資格を活かせる会社に絞って就職活動をする方法があります。即戦力として認められる人材なら雇用する側の味方も違ってきます。

しかし、この機会に他の業種や職種に挑戦したいと考えた場合は、ある程度の期間を使って準備しなければなりません。
ここでその準備の4つのステップを考えてみます。
《有利な再就職活動のための4ステップ》
①自己の振り返りと分析
②業種、職種の絞り込み
③必要な資格やスキルの確認
④資格の取得やスキルの習得
ひとつずつ見ていきましょう。
ステップ①自己の振り返りと分析
希望する条件に合った求人を探すためには、いま現在の自分自身を知る必要があります。
自分はどんな仕事がしたいのか?得意なことは何なのか?どのような環境でどんな人たちと時間を過ごしたいのか?今までを振り返って整理すれば応募する先の絞り込みがしやすくなります。
その際に、子供の頃になりたいものは何だったか?若い頃にやりたかったが諦めてしまった仕事はなかったか?など、今までのキャリアとは関係なく思い返してみてもいいでしょう。
ステップ②業界、職種の絞り込み
自分の振り返りと分析の結果と、今までの実際のキャリアや現在持っている知識やスキルを併せ考えて、応募する業種や職種を絞り込みます。
雇用する会社側の立場で考えれば、即戦力と認めてもらえない限り良い条件での再就職はできません。応募先を絞り込むことで、自分が備えるべきスキルやアピールポイントが明確になります。
ステップ③必要な資格やスキルの確認
業種や職種の絞り込みができたら、必要とされるスキルや資格を確認します。
そもそも資格がなければ就けない職種や、資格があったとしても経験を問われる場合もあります。
資格取得の難易度なども考慮して、現実的な範囲で可能なことを見極めましょう。
ステップ④資格の取得やスキルの習得
応募のために必要な資格について良く調べ、取得が可能であれば迷わずチャレンジしましょう。また、経験を積む場所があれば、何らかの形で関わることも有効です。
限られた期間の中で、しかも今の会社での仕事をこなしながら、再就職のための準備を進めることはけっして簡単ではありません。
しかし、今の状態の自分自身を求めている会社はないということを前提に考えれば、この努力は必須になります。
雇用する側の立場に立って考える
定年退職を迎える年齢まで仕事をしていると、「人を採用する側」としての経験があるかもしれません。そんな視点で、60代の人を雇用する側に立って「高齢者雇用の不安要素」を考えてみましょう。
《高齢者雇用の不安要素》
●健康・体力
高齢者は、健康面や体力面で不安があるため、病気や怪我などで長期間休む可能性があること。●ITリテラシー
高齢者は、新しい技術や知識についての理解が遅れることがあるため、業務の効率化や生産性向上につながらないこと。●コミュニケーション
高齢者は、若手社員とのコミュニケーションに課題があることがあるため、チームワークや職場環境に悪影響を与えること。
以上のような心配事が想定できます。
還暦世代から見れば、こういう不安要素は先入観を持ってみた場合のやや偏りのある発想といえますが、たとえそうであってもその不安要素を消し去る努力をしなければなりません。

健康不安があるからこそ生活習慣に気をつけている。結果的に若い世代に比べて活力的に暮らしている!

技術の進歩で私たちを取り巻く環境が劇的に変化するのを目の当たりにしてきた!高齢世代のほうが、逆にこれから先の変化に敏感になっている!

人間関係でもたくさんの経験を積んだし、失敗もした。その中で培ったコミュニケーション能力は若い人には負けない!
このような点をアピールすることが大切です。
ただこれは言葉で伝えるだけで信用してもらえるはずはありませんから、根拠を示す必要があります。
●健康面や体力面に問題がないこと。
食事習慣の改善や、ある程度の頻度で生活に運動を取り入れるなど、健康管理への配慮も実行する必要もあります。
その結果として今ある自分の姿や雰囲気ははつらつとしていなければならないのです。
●新しい技術や知識についても積極的に学ぶ姿勢があること。
スキルアップのための学習や資格の取得に時間を費やすことはたいへん重要です。
学習や仕事に活かせる資格取得などの自己投資を行っていたことを伝えれば、好印象を感じてもらうことができます。
離職後にブランク期間を経てから再就職する場合は、ブランク期間中に何をしていたかについて、前向きな取り組みをアピールすべきです。
もちろん退職後すぐに再就職する場合でも、在職中の空いた時間をどう使っていたかということは、評価の基準のひとつになるでしょう。
仕事以外の時間を趣味や娯楽だけに費やすのではなく、自己投資に充てることは将来に向けた意欲を証明する材料になるからです。
●豊富な経験により、優れた人間関係づくりやコミュニケーション能力があること。
自己啓発の書籍などで見識を深め、自身の経験とあわせた考え方が、応募書類や面接などの場で表現できれば、高齢者雇用のリスクをメリットに感じてもらうことにもつながります。
高齢者のイメージとしてありがちな、柔軟性のなさ、許容する姿勢の欠如や独善性などを払拭するような考えを伝えられれば、採用担当者の見方も変わるはずです。
まとめ
定年後の再就職の難しさと、その対策についてみてきました。
比較的簡単でストレスの少ない「再雇用」ではなく、「再就職」に挑戦するのは決して楽な道のりではありません。
長寿化の負の側面である社会保障制度への不安、劇的な技術革新が生み出す雇用環境の変化などを考えれば、現状のままでいることこそがいちばんのリスクなのです。
これは人生100年時代を論じたベストセラー「ライフシフト」の著者からのメッセージです。
技術の進歩で消滅する業種やAIに取って代わられて不要になるスキルが生まれ、雇用環境の激変も想定される中、今のキャリアやスキルだけでは長くなる働く期間を生き抜くには不十分だという考えです。
そう考えれば、定年退職を機に新しい分野にチャレンジすることはごくあたりまえのように思えてきます。
とはいえ、60歳以上の求人事情の現実は厳しく、良い条件での再就職を実現させるには相当な覚悟と堅実な努力が必要なのはいうまでもありません。

高齢者を雇用する会社側の立場に立てば、何の準備もなく応募してくる人を採用するはずがないことは容易に想像できるからです。
定年後の再就職を成功させるには、会社側が求める人物像を理解して、自分をそのイメージに近づけることが必要です。
応募や面接の時点でのアピールも重要ですが、なによりも自信をもって自分を売り込める根拠が必要になります。
資格の取得やスキルアップのための行動は、再就職活動のためだけに留まらず、自分自身の成長と自信にもつながるのでしょう。
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