定年退職のタイミングで考えなければならないことは、想像以上に多いものです。
なかでも、60歳で会社を離れる際、多くの方が直面するのが「健康保険の切り替え問題」です。
これまでは会社が半分負担してくれていた保険料も、退職後はすべて自己負担しなければなりません。あまりよく考えずに、何となく選んでしまうと、年間で数万円、あるいは十数万円もの差が出てしまうこともあります。
結論から言うと、この定年後の健康保険の選択には、「すべての人に共通の正解」はありません。
しかし、その人の状況に応じた、「選ぶべき優先順位」は決まっています。
この記事では、FP(ファイナンシャルプランナー)の視点から、還暦世代が最も固定費を安く抑えられる健康保険の選び方をわかりやすく解説します。
古い知識のままだと勘違いしがちな「法改正による最新情報」も踏まえ、あなたのベストな選択に役立ててください。
定年後の健康保険「超基本」
日本は「国民皆保険」の制度を取っていますから、すべての国民が何かしらの公的医療保険に加入しなければなりません。
会社を辞めて、それまで入っていた健康保険から抜けると無保険状態になってしまうので、自分で保険加入の手続きをする必要があるのです。
会社員生活で忘れてしまった「自分で手続き」
会社員を長く続けていると、いろんなことに慣れてしまい、「自分で健康保険に入る」という感覚に違和感を覚えることもあるかもしれません。
健康保険証が当たり前のように手渡され、保険料も給与から引かれる。定年退職して会社員でなくなるとそれが当たり前ではなくなるのです。
もちろん、退職後すぐに次の会社に就職する場合は何も問題ありません。今までのように頼まなくても新しい保険証が手渡され、保険料も頼まなくても給与から引かれます。
しかしそれ以外の場合は何もしないわけにはいかないのです。
定年退職後の健康保険「三つの選択肢」
定年退職後の健康保険加入には、次の三つの選択肢があり、手続きの方法はどれを選ぶかによって異なります。
- 健康保険の「任意継続制度」を利用
- 「国民健康保険」への加入
- 家族の「健康保険の扶養」に入る
※特例退職被保険者制度というのもありますが、これはごく一部の大企業だけのものなので省略します。
どの健康保険も医療費の自己負担に違いはなく基本的に3割負担です。

となると、「支払うべき保険料」が、どの保険に加入にするかを判断する主なポイントとなるでしょう。
【比較表】任意継続 vs 国民健康保険 vs 家族の扶養
まずは、3つの選択肢の違いを一覧表で確認しましょう。
| 家族の扶養に入る | 健康保険の任意継続 | 国民健康保険 | |
| 保険料 | 無料(自身・扶養者共に負担なし) | 在職時の約2倍(上限あり) | 前年の所得により決定 |
| 扶養家族分の負担 | 無料(自身が扶養される側) | 在職時と同じく無料 | 概念なし(人数分加算) |
| 加入期間 | 制限なし(扶養者の加入期間内) | 最長2年間 | 制限なし |
| 途中解約 | いつでも可 | 可能(2022年の制度改正以降) | いつでも可 |
| おすすめの人 | 家族が社会保険に加入中 | 扶養家族が多い・高年収 | 家族に社保加入者がいない |
この表からもわかる通り、最もお得なのは「家族の扶養」です。扶養者、被扶養者ともに保険料の負担なしで健康保険が利用できるからです。
しかし、扶養に入るためには厳しい条件があり、確認が必要です。
まずは扶養を検討し、それが難しい場合に残り2つを比較するという手順で進めましょう。
最強の選択肢は「家族の扶養」!年収180万の壁と注意点
納める保険料の点で3つの選択肢の比較をした場合、ベストな選択が「扶養に入る」だということがわかりました。
ここではまず、理想的である「扶養に入る」についての概要や条件を確認して、次に扶養に入れない場合に残される2つの選択肢について比較していきましょう。
健康保険の「扶養」の考え方
会社員として健康保険に加入している方は、子供や配偶者、親などを(要件を満たす場合に限り)健康保険の扶養に入れることができます。
こうすることで、扶養者、被扶養者ともに、同じ条件で健康保険を利用することができます。

そのとき、扶養される人の保険料はいっさい納める必要はなく、何人扶養していても給与から引かれる健康保険料は変わらないのです。
自分が定年で退職した場合、自分が扶養される側の立場になりますが、この「扶養」の考え方自体は変わりません。
たとえば、自分は定年退職したけれど配偶者がまだ会社員として働いている場合、条件さえ満たすことができればその扶養に入ることができます。

配偶者に限らず、親族であれば同じように扶養に入ることができますが、状況に応じてさまざまな条件があります。
ここで健康保険の扶養加入の条件を見てみましょう。
扶養者の範囲は三親等内の親族
まずは、制度上「誰の扶養に入れるのか?」という点をおさえておきましょう。
全国健康保険協会では被扶養者の範囲を以下のように定めています。
《被扶養者の範囲》
1.被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人(※これらの方は、必ずしも同居している必要はありません)
2.被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人(※「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態をいいます)
① 被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く)
② 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
③ ②の配偶者が亡くなった後における父母および子
※ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は、除きます。
一般的には、被保険者(健康保険に加入して働いている人)の収入で生計を立てている配偶者や三親等内の親族が扶養の範囲と考えていいでしょう。
三親等内の範囲はけっこう広く、定年退職者である自分から見た場合、上は曾祖父(ひいおじいさん)下は曾孫(ひまご)まで入りますし、叔父伯母(おじ・おば)や甥姪(おい・めい)なども入ります。

とはいえ、定年退職後の健康保険ですから、年齢的には、妻もしくは子供の扶養に入るのが現実的でしょう。
その前提で次の条件である「被保険者に生計を維持されている人」。つまり「収入」についての要件を見てみましょう。
60歳以上は「180万円未満」が条件
被扶養者として認定されるには、「主として被保険者の収入により生計を維持されている」必要があります。
この点についても、全国健康保険協会の規定を確認しましょう。
《被扶養者の収入の基準》
【被保険者と同一世帯に属している場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。【被保険者と同一世帯に属していない場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、被扶養者となります。
「生計を立てている」かどうかの判断は、まず、「180万円未満の収入」が条件です。さらに、同居と別居で条件がやや変わります。
- 同居の場合:被保険者の年間収入の2分の1未満
- 別居の場合:被保険者からの仕送りによる収入額より少ない
以上が健康保険の被扶養者に認定されるための基本的な条件ですが、世帯の生計の状況などにより例外が認められる場合もあります。
【落とし穴】失業保険をもらうと扶養から外れる?
ここまで、家族の健康保険の扶養に入るための条件を見てきましたが、見落としがちな重要なポイントがひとつあります。

定年退職後に失業保険(正式には求職者給付の中の基本手当という)を受給する場合は条件が異なります。
《失業保険受給者が健康保険の扶養に入る際の注意点》
失業保険(求職者給付の基本手当)を受給中は、1日あたりの受給額(基本手当日額)が一定額を超えると扶養に入れません。
例えば協会けんぽの場合:1日あたり 5,000円以上の失業保険を受給していると扶養に入れません(2024年度基準)
この金額は、扶養が認められる「180万円未満の収入」を基準に算出されています。
1,800,000円 ÷ 360日 ≒ 5,000円

これは「向こう1年間の収入見込み」で判断されます。失業保険も収入とみなされ、これを年額換算して判定が行われます。実際の受給日数や受給総額は考慮されません。
ここまで見てきたように、定年退職後に家族の健康保険の被扶養者になるためには、いくつかの条件を満たさなければなりません。
そして、その条件をクリアして扶養に入ることができれば、保険料を払う必要がないというわけです。
しかし、条件を満たせずに扶養に入れない場合に残された選択肢は「任意継続制度」「国民健康保険への加入」のどちらかになります。
では、それぞれの特徴について解説し、比較していきましょう。
健康保険の任意継続制度とは
「健康保険」と「国民健康保険」・・似たような名称でとてもややこしいですが、この二つの保険制度は、まったく別に運営されています。
会社員などが入っている健康保険は、都道府県や市区町村が運営している国民健康保険とは関係なく、
「全国健康保険協会(協会けんぽ)」もしくは企業などが独自に作る「健康保険組合」が運営しています。
任意継続制度は2か月・2年・20日
健康保険の任意継続制度とは、退職者(定年退職に限らず)が「働いていた会社の健康保険」に2年間を限度に引き続き加入できる制度です。
この場合は退職前と同じ保証を受けることができ、扶養に入っている家族も引き続き健康保険に加入できます。
全国健康保険協会では、健康保険の任意継続に加入するための条件を次のように規定しています。
健康保険の任意継続に加入するには、次の2つの条件を満たしていることが必要です。
- 資格喪失日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヵ月以上あること。(同一事業所でなくても、空白なく2ヵ月間の加入があれば可)
- 資格喪失日(退職日の翌日等)から20日(20日目が土日・祝日の場合は翌営業日)以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること。

この申出書の提出は期限厳守です。一日でも遅れると絶対に受け付けてもらえないので注意が必要です。
要注意!任意継続の保険料は2倍
任意継続の保険料は、会社に在職していた時と同じで、標準報酬月額をもとに計算されます。つまり、退職前の保険料と同じと考えていいでしょう。
ただし注意しなければならないのは、在職時に給与から引かれていた金額の2倍になることです。

在職時の健康保険料は労使折半といって、会社側が半分負担しています。つまり給与明細の健康保険料の項目で引かれていた金額とほぼ同じ額を会社が支払っていたのです。
任意継続で以前と同じ保険に入っているとはいえ、退職後は会社側の負担はなくなり、全額を自分で負担することになります。結果的に保険料が2倍になるというわけです。
特に給与が高かった場合はかなりの金額になってしまいます。しかしその点にはついては配慮されていて、保険料には上限があります。
任意継続の保険料算出の基準となる「標準報酬月額」の上限は30万円となっています。
保険料率は都道府県で多少の違いはありますが、10%程度なので、3万円程度が毎月の任意継続保険料の上限目安となります。(これに介護保険料5千円程度がプラスされます)
ただしこれは加入しているのが「協会けんぽ」の場合です。

会社員が加入する健康保険には、主に中小企業が加盟する「協会けんぽ」と大企業が独自につくる「組合健保」の2つがあります。自分が入っているのがどちらかは、保険証の「保険者名称」のところで確認できます。
「組合健保」の場合、この保険料の上限は比較的高く設定されているケースが多いようです。ただその半面で、健康診断や福利厚生施設の利用などの点で優遇されている面もあるようです。
任意継続のメリットは扶養家族
任意継続に限らず、健康保険加入のいちばんの特徴は「扶養の概念」があるということでしょう。
保険加入者に扶養家族がいる場合はその全員が保険料の負担なしで保証を受けることができます。そしてその分の保険料が上がることはありません。
この点が国民健康保険との比較で大きなポイントになるでしょう。
加入に必要な手続き
定年退職後、健康保険の任意継続をするには、退職日の翌日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」という申請書を、健康保険組合または全国健康保険協会支部に提出しなければなりません。
この20日以内という期限は厳守です。過ぎてしまうと絶対に受け付けてくれないので注意が必要です。
これは退職者が直接行う必要があります。また、扶養家族がいる場合など、添付書類が必要になることもあるので、事前に確認したほうがいいでしょう。
任意継続の場合、保険料を滞納すれば即資格喪失して、国民健康保険の対象となります。
国民健康保険とは
「コクホ」と呼ばれることも多い国民健康保険ですが、実はこのコクホには2種類のものがあります。
- 市区町村など地方自治体が運営するもの
- 同業の自営業者で作る国民健康保険組合が運営するもの
ここでは、一般的な定年退職者が入る「地方自治体が運営する国民健康保険」について解説します。
国民健康保険とは
国民健康保険制度は、会社員などが入る「健康保険」に加入していないすべての人が対象になるものです。(※75歳以上になると後期高齢者医療制度への加入に移ります)
制度の運営は都道府県と市区町村、つまり地方自治体が行っていて、保険料は世帯ごとに収入や資産額、世帯人数に応じて算出されます。
計算方法は市区町村によって異なるうえにとても複雑なため、正確な金額は市区町村の窓口で確認しなければわかりません。
国民健康保険の保険料には前年の収入が影響
国民健康保険の保険料については、簡単に理解できるものではありません。結局のところ、正確な金額は市区町村の窓口で確認しなければわかりません。

およその保険料は、各市区町村のウエブサイトでシミュレーションができます。年齢と、源泉徴収票などで確認した「給与年収(税込年収)」を入力するだけで簡単に算出されます。
一般的には、
- 前年の収入が高いほど高くなる。
- 扶養家族が多いほど高くなる。
と考えていいでしょう。
国民健康保険に「扶養」はない
国民健康保険の特徴のひとつは「扶養の概念がない」ことで、これは納める保険料に大きく影響します。
会社員などが加入する健康保険の場合、扶養している家族が何人いても保険料は変わらず、その家族全員が同じ医療保障を受けることができます。
しかし、国民健康保険では、家族それぞれに加入義務があります。(※保険料の納付義務は、世帯主がまとめて負います)

家族の人数に応じて一人当たりの保険料は減額されますが、扶養家族の人数が多いほど保険料が高くなることに変わりはありません
その結果、扶養家族が多い人の場合、定年退職後に国民健康保険に切り替えたとたん保険料が大きく上がってしまうことがあります。
加入に必要な手続き
定年退職の健康保険を国民健康保険にする場合の手続きは次の2ステップです。
- 社会保険をやめる手続き
- 国民健康保険の加入手続き
「社会保険をやめる手続き」でやるべきことは、退職日に保険証を会社へ返却するだけです。(※扶養家族がいれば全員分)
あとは会社で手続きを進めてくれ、「社会保険資格喪失証明書」が発行されます。(一般的には、後日自宅に郵送される)

「社会保険資格喪失証明書」とは、社会保険に加入していた期間を証明する書類で、国民健康保険に加入するときに必要な書類です。
次に、「国民健康保険の加入手続き」に移ります。
退職した日の翌日から14日以内に、お住まいの市区町村(国民健康保険担当課)で国民健康保険の加入手続きを行います。
手続きに必要なものは以下のとおりです。
- 社会保険資格喪失証明書
- 本人確認書類(免許証・パスポート・マイナンバーカードなど)
- マイナンバーカード(または通知カード)
社会保険資格喪失証明書が手元に届いてからの手続きとなりますが、国民健康保険の加入日は、「資格喪失日(退職日の翌日)」からです。

国民健康保険の加入手続きが遅れても、国民健康保険は退職日の翌日までさかのぼって加入することになりますので、保険の空白期間はありません。
「任意継続」vs「国民健康保険」どっちが安い?
家族の扶養に入れない場合、自分で保険料を払うことになります。ここで多くの人が「任意継続と国保、結局どっちが安いの?」という問題にぶつかります。
どちらを選んでも、受けられる保証にはほとんど違いがありません。(健康保険の傷病手当を受給中であるなどの特定の状況では違いがあります)
すると、選択のポイントは「保険料の違い」ということになります。
ここでは、「健康保険の任意継続」と「国民健康保険への加入」のどちらが有利な選択かを、「保険料」に着目して比較しましょう。
保険料に影響する「前年の収入」と「扶養家族」
健康保険も国民健康保険も、保険料には前年の収入が関係してくるという点では共通しています。
ただし、計算方法は異なります。
- 健康保険:退職時の給与(正確には標準報酬月額)をもとに算出される。
- 国民健康保険:去年1年間(1月~12月まで)の税込年収(総支給額)をもとに算出される。

国民健康保険の正確な保険料は市区町村の窓口で確認しなければならないので、比較が難しそうに思うかもしれませんが、およその数字での比較は意外とかんたんです。
- 健康保険:退職前の給与明細の「健康保険(介護保険料を含む)」の欄の金額の2倍。
- 国民健康保険:市区町村のウエブサイトのシミュレーション機能を利用。(年齢、税込年収を入力)
健康保険の金額が2倍になるのは、在職中は会社側が負担していた折半分も負担が必要になるなため。
選択のためのチェッポイント
ここまでで、健康保険も国民健康保険も、保険料には「前年の収入」と「扶養家族」が影響することがわかりました。
ここでは、その2点に着目して、選択に活かせるチェックポイントをまとめました。
《任意継続を選んだ方がいい人》
- 扶養家族(妻・子・父母)がいる: 何人扶養していても保険料が変わらないため、圧倒的に有利です。
- 現役時代の給与が高かった: 上限額があるため、国保より安く済むケースが多いです。
- 副業収入がある:保険料は保険加入していた会社(本業)の給与のみ基準となるため。
《国民健康保険を選んだ方がいい人》
- 扶養家族がいない: 家族の分を加算されないため、国保の方が安くなる傾向があります。
- 前年の所得が低い:保険料の算出基準額が低い。
- 離職理由が自己都合(定年含む)以外: 減免制度が使える可能性が高い。

離職理由による国民健康保険料の「減免制度」と「副業収入」の扱い方については後の項目で解説します。
法改正で大きく変わった選択支の意味
保険料の比較でもうひとつ重要な点があります。
- 健康保険の任意継続:保険料は加入から2年間変わらない。
- 国民健康保険:保険料は収入が下がれば翌年安くなる。
以前は「任意継続を選んだら2年間変えられない」というルールがありましたが、2022年の法改正で、任意継続を途中でやめて国保に切り替えることが可能になりました。

この「任意継続の2年縛り」が無くなったことで、ずは1年目を任意継続で乗り切り、収入が下がった2年目に国保へ切り替える、といった節約術も使えるようになったのです。
これで、定年退職時の選択の悩みはだいぶ軽減されたのではないでしょうか。
意外と知らない!「特定理由離職者」なら国保が7割減免に
「保険料を比較したら国保の方が高い・・・」という場合でも、必ず確認してほしい二つの制度があります。
- 特定受給資格者:倒産や人員整理などで解雇された場合・ハラスメント被害など
- 特定理由離職者:契約の期間が満了による退職(更新を希望した場合)・その他やむを得ない事情
参考資料<<厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」

「倒産や解雇なんて自分には関係ない」とあきらめる前に、「特定理由離職者」についての確認だけでもする価値があります。
もしあなたが「特定理由離職者」に該当する場合、国民健康保険料が本来の3分の1程度まで安くなる可能性があるのです。
ここでは「特定理由離職者」の意外に広い範囲と、それを簡単に見極める「魔法の数字」について解説します。
特定理由離職者とは?
還暦世代の離職理由は定年退職が一般的ですが、もちろんそれ以外のケースもあります。

ここでは、比較的多いのにあまり知られていない「特定理由離職者」の範囲について解説します。それが退職後の健康保険の選択肢に大きく影響するからです。
《特定理由離職者の範囲》
①期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、更新されなかった場合に限る。)
②以下の正当な理由のある自己都合により離職した者
(1) 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者
(2) 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第20条第1項の受給期間延長措置を受けた者
(3) 父若しくは母の扶養や介護のため離職を余儀なくされた場合など
(4) 配偶者又は扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことにより離職した者
(5) 結婚、育児、事業所の移転、転勤、運輸機関の廃止などの理由により、通勤不可能又は困難となった者
(6) その他、「特定受給資格者の範囲」に該当しない企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者など※参考資料より抜粋
参考資料<<厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
このように、「特定理由離職者」とは、定年退職を含む自己都合退職者の中で、特別な事情が認められる人のことです。
これらの場合は、本人に重大な過失がなく、やむを得ない理由で離職したと判断されます。

この特定理由離職者に該当する場合は、失業保険の受給の面で有利になるだけでなく、国民健康保険料が本来の3分の1程度まで安くなる可能性があるのです。
60代の退職でよくあるケースとしては、以下のような理由が挙げられます。
- 契約期間満了: 働く意思はあったが、契約更新されなかった契約社員や派遣社員
- 健康上の理由: 病気やケガ、体力の低下により、これまでの仕事を続けるのが困難で退職した場合
- 介護や家族の事情: 親の介護や配偶者の転勤など、やむを得ない家庭の事情で離職した場合
通常の「定年退職」や自己都合の「普通退職」は対象外ですが、上記の理由が少しでも重なる場合は、会社が発行する「離職票」の理由欄を必ずチェックしましょう。
その際に知っておきたいのが「魔法の数字」です。
自分が対象か見極める「魔法の数字」
自分が「特定受給資格者」や「特定理由離職者」の対象かどうかは、ハローワークから渡される「雇用保険受給資格者証」をみればわかります。
その中の「離職理由コード」が下の表にある数字であれば対象者です。
| 対象となるコード(2桁の数字) | |
| 特定受給資格者 | 11, 12, 21, 22, 31, 32 |
| 特定理由離職者 | 23, 33, 34 |

該当する場合は、迷わず市区町村の窓口へ行ってください。自動的には安くならないため、申請が必要です。
該当しない場合でも、離職票の「理由」をを変えることも可能です。
会社から送られてくる離職票に「自己都合(定年)」と書かれていても、実際には病気や契約更新の拒否が理由である場合、ハローワークで異議を申し立てることで理由を変更できる可能性があります。
これは、数万円、数十万円の節約になる大きな分岐点です。
少しでも「当てはまるかも?」と思ったら、自分一人で判断せずにハローワークの窓口で相談することをおすすめします。

この7割軽減が適用されると、ほとんどのケースで「任意継続」よりも「国民健康保険」の方が圧倒的に安くなります。
この制度が使えるなら、退職後の健康保険の選択が大きく変わるはずです。
まとめ
定年退職後の健康保険選びについて解説してきましたが、最後に大切なポイントと「損をしないための行動3ステップ」を整理しましょう。
●最優先は「家族の扶養」: 保険料0円は最強の節約術。60歳以上なら「年収180万円未満」などの条件を確認しましょう。
●次に「任意継続」か「国保」を比較:
扶養家族が多い人・高所得だった人は、上限のある「任意継続」
単身の人・所得が下がる人は、「国民健康保険」
●「2年縛り」はもうない: 令和4年から、任意継続を途中でやめて国保へ切り替えることが可能になりました。
●「7割減免」をチェック: 倒産・解雇・契約満了などの場合は、国保が驚くほど安くなります。
以上のポイントをおさえたうえで、「損をしないための行動3ステップ」を確認しておきましょう。
-
Step 1: 家族(配偶者や子供)の健康保険の条件を確認し、扶養に入れるか調べる。
-
Step 2: 自分の住んでいる自治体の窓口で、「国保に入ったらいくらになるか」を試算してもらう。
-
Step 3: 会社の健康保険組合に、任意継続した場合の保険料を確認して比べる。

社会保障の制度は一見複雑ですが、やるべきことは意外とシンプルです。「どちらが出費を抑えることができるか」。この一点に集中して比較すれば、答えは必ず見つかります。
会社員時代は「自動的」に守られていた健康保険ですが、これからはあなた自身が選択し、行動しなければなりません。
賢い選択をして、大切なお金を守り、安心なセカンドライフをスタートさせましょう!


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