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《第13話 脱多重債務計画》
自分の弱い部分やダメなところと正面から向き合うのはとても難しい。
特に、
「自分は間違っていない」「私は他の人間より優れている」
そんな自信家にとっては、ミスを認め、自分の愚かさを受け入れるのは至難の業である。
しかし何かの折に、偶然としか言いようのない状況下で、劇的な変化のきっかけに遭遇することがあるものだ。
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レイコはコンビニの自動ドアを出ると、心地よい風に吹かれながらふと夜空を見上げた。

あら、今日は星がこんなに良く見える。ていうか、空なんか眺めるの久しぶりかも。
自分の中で明らかに起きた変化。
それはとても小さくて、しかも心の奥の方での出来事だったせいか、彼女自身もその正体が何なのか分かってはいなかった。

優秀なあなたでもお金のことについては劣等生だったということでしょうな。
「劣等生」という言葉とは無縁の人生だった。
現在56歳。病院の管理栄養士として働くレイコは、子供の頃から成績も良く、何事もそつなくこなしてきた。
親や先生から褒められるのが嬉しくて、努力も苦ではなかった。これといった挫折もなく大学を卒業して栄養士になり、職場でも認められ、順調に社会人としてのステップを踏んできた。
若い頃は恋愛もそれなりにした。結婚話に進展したことも何度かあったが、彼女はいつも「もっと理想的な人がいるはず」と思ってしまった。
結果的に、結婚の機会を一度も掴むことなく、いつの間にか五十代半ばを過ぎていた。

ひとりが気楽でいいわ。私、結婚には向いてないのよ・・なんて言ってるけど、ほんとは結婚したかったなー。子供がいたら人生変わってたかなー・・
そんな本音を漏らせる相手は一人もいなかった。
たしかに独身生活は自由ではあった。休日は気ままにショッピングに出かけ、ブランドのバッグや服を買うと気分が晴れた。
新しい服やバッグを褒められるのはとても気持ちがよく、自尊心が満たされた。
しかし、気づけばクレジットカードの引き落とし額は増える一方。リボ払いを繰り返すうちに、残高は雪だるま式に膨らんだ。

節約しなくちゃダメなのは分かってるけど、買い物くらいしか楽しみないし・・
職場でのストレスや孤独感を紛らわせるために、またブランドショップのショーウィンドウに足を止めてしまう。
借金の総額を正確に把握するのが怖くて、明細書をきちんと確認できない。そして、月末になるたびに口座残高が足りず、ついにカードローンにまで頼ることになっていた。
そんな時出会ったのがFPの芝ハマヲだったのだ。

クレジット支払いは実質的には借金と同じです。それに、分割払いやリボ払いというのは消費者金融からお金を借りているのと同じことなのです。
彼の言葉ひとつひとつが胸に刺さった。
初めて自分が愚かな人間だと実感したからだろう。

今では学校の授業でもやっと金融教育というのが取り入れられてきたようですが、私たちが子供の頃はそんなことはありませんでしたからな。
そんな言葉で慰めてもくれたが、レイコはそれに甘える気などなかった。

この歳で環境や他人のせいになんてできない。この状況から自分の力で抜け出さなければ。
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ハマヲと出会って数日後、病院の職員向けに、外部講師による『ライフプランとマネー管理』というセミナーが開かれることになった。
職場の福利厚生の一環で定期的に行われるこの手のセミナーをレイコは今までスルーしてきたが、今回は違った。
セミナーの内容はレイコの背中を押す決め手になった。
『ライフプランとマネー管理』セミナー
「皆さん、自分のお金の流れをきちんと把握できていますか? 収入と支出、そして借入があるなら返済計画。それらを『見える化』することが第一歩です」
「カードローンやリボ払いの危険性を知っていますか?『利息が膨らむ仕組み』を理解していないと、気づけば元本の何倍も払うことになるんです」
「お金は感情と深く結びついています。『ストレスや孤独』を埋めるための買い物は、根本的な解決にはなりません」
そこで語られるすべてが、まさに自分のことだったのだ。
セミナーの後、レイコは資料の最後に書かれていたFPの個別相談の案内に目を留めていた。

個別相談か・・。私に必要なのは分かってるけど、申し込みは総務課を通して・・か。職場の人に知られるのはイヤだな。
自分の置かれた深刻な状況は理解していたが、彼女はまだプライドの壁を越えられずにいた。
そんな時思い出したのが、FPの芝ハマヲだった。

あ、もしもし、私先日コンビニでお会いしたものですけど。はい、コピー機のところで。おぼえていらっしゃいますか?

あー、あの時の。もちろんおぼえています。コピーの出る場所を教えていただいてほんとに助かりました。いえ、実はあの次の日もあそこでコピーを取りましてね。今度は両面印刷の方法がわからずに困ったんです。でもあなたの言葉を思い出しまして、すぐに店員さんを呼んだら親切に教えてくださいました。やはり「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」ですな。でも矛盾するようですが、こんなふうにも思うのです。わからないなりに自分でもチャレンジすることも必要なのではないかと。今はスマホひとつで何でも聞ける時代ですが、自分なりに考えることを忘れてはいけないとも思います。まあこの辺りはケースバイケースなんでしょうな。まあ、そういうことで、いずれにしてもその節はお世話になりました。

いえ、そんな私の方こそいろいろ教えていただいて・・、あ、そういえば、あの時お帰りななった後で釣銭返却口に10円玉が残ってるのに気づいたんですけど、もう間に合わなくて。それで店員さんに預ければよかったんですが、なぜか私そのまま持ってきてしまって・・

あ、そうでしたか。それはいわゆる遺失物等横領罪ですな・・

え?それは・・

あ、いや、もちろん冗談です。お気になさらず、少ないですがとっておいてください。あの時のお礼です。あ、もしかして今日はそのことでわざわざのご連絡をくださったと?

あ、いえ、そうではなくて、実はあの後いろいろ考えていて、自分の今の、なんていうお金の事情のことを。
レイコは職場で参加したセミナーのことや、その内容に危機感を覚えたことをハマヲに話した。そして職場の関係もあり、そのFPの個別相談が受けづらいことも。

それで、いただいたチラシのことを思い出したんです。あのプロジェクトに参加したら相談に乗ってもらえるかと思って。でも・・さっきおっしゃっていた、わからないことに自分なりにチャレンジするというこも大事なのかなと・・

そうですな。先ほども言いましたが、そのあたりのことはケースバイケースだと思います。ただ、あなたの場合は既に答えが出ています。あの時に伺ったお話からすると、もはやあなたは自力ではどうにもならないところまで来ていますからな。

あー、やはりそうですよね。

ご自分でもお気づきとは思いますが、あなたは立派な多重債務者です。この状態から生活を立て直すためには、いくつかのステップを確実に踏んでいかなければなりません。
《多重債務から抜け出すステップ》
- 「返済計画」
借金の全容をはっきりした数字で把握し、実行可能な返済計画を立てる。
低金利のローンへの借り換えや、場合によっては法的な整理も選択肢に入れる。- 「支出の把握」
家計簿をつけ、支出を見える化し、固定費を中心に無駄な出費を削る。- 「生活の再構築」
外食を減らし自炊中心にしたり、ストレス発散のための買い物はやめ、身体と精神の両面から暮らし方を改善させる。- 「資産形成」
借金が完済したら、その後は資産形成の段階に入る。
少額からでも投資を始めるなどして、退職後の暮らしに備える。

はい。確かに自分一人で乗り越えられそうにないですね。弱音を吐くようで情けないですけど・・

情けないことはありません。あなたは優秀な方ですから、知識を得るだけならご自分一人でもできます。しかし行動するにはコーチや中もの存在が必要なのです。例のプロジェクトはそういう意味でもあなたにピッタリだと思いますが。

仲間・・ですか。私、子供のころから集団みたいなのが苦手で。今でもあまりそういうことが・・私、こう見えてもけっこう人見知りなんです。

あなたの人見知りの原因は、おそらくプライドの高さによるものではないでしょうか。

プライド?そういわれればそうかもしれません。実際、本音を話せる友人はいませんし・・、だからお金のことも誰にも相談できずにいますから。

そうですな。他人と深く付き合うには、ある程度自分をさらけ出さなければなりませんから。

でも私、どうしても今の状態を変えたいんです!そのためには私自身が変わらなければなりませんよね。

それは素晴らしい覚悟ですな。とはいえ、人と人は相性というのもあります。実は今度プロジェクトの説明会をやるんですが・・、とりあえず参加してみてはいかがでしょう?何人か参加者がおられるのでその時に会えるはずです。その時の雰囲気でお考えになってはどうかと。
レイコはプロジェクト説明会に参加することを伝え、日時をメモしてから電話を切った。
不安は山ほどあった。
今の経済的な状況をほんとに変えられるのか?
見ず知らずの人たちと「仲間」になれるのか?
そもそもあの芝ハマヲという人物は信用できるのか?
あのメンバー募集の怪しさは何なのか?
しかしその不安を吹き飛ばすのに十分な決意がレイコにはすでにあった。

どんなことをしてでもこのピンチを乗り越えて人生を変えるのよ!
今回のピックアップキーワードは「脱多重債務」です。
こちらの記事で詳しく解説➡「還暦世代も安心!使いすぎ防止のデポジット型クレジットカード2選」
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